Stop me now!





 と付き合うようになってそれなりの時間が経過したというのに、手をつなぐことも、抱きしめることも、キスをすることすらも出来ずにいた。今以上の関係に踏み込みたいのに、どのタイミングで踏み込むべきなのかが分からない。打算で事を運べるほど、人間関係に関して器用でないのは、自分がよく知っている。

 手をつなぐ事にすら後ろめたさを感じてしまう自分を情けなく思う。白くて、か細くて、触れたら今にも壊れてしまいそうなほど繊細な手のひらはありのままの自分を受け入れてくれるのだろうか。白く、繊細なその身体は、赤く、水々しく熟れた口唇は、自分を拒んだりしないだろうか。散々他人との交流を拒んでいた自分は、果たして彼女に触れる権利を得ているのだろうか。

 一般的な恋人たちが颯爽とこなすコミュケーションを渋ってしまっているというのに、内に秘めたる性的な欲望だけは人一倍強い事を、彼女は気づいているのだろうか。


「おい、起きろって」


 部屋に入るなりベッドに横になって、無防備に惰眠を貪りだしたの肩を揺する。彼女はううんと唸るばかりで、一向に目を覚まそうとはしない。制服のスカートからはみ出した肉感的な太ももに視線が落ちる。下着が見えるか見えないかのギリギリのラインで止まるスカートのように、俺の理性もどうにか限界のラインで踏みとどまっているという事を、が知るはずもない。


「なあ…」


 好きだという気持ちを自覚すれば自覚するほど、自分らしさが失われていく。どうにか形を留めている理性を保たねばならないと頭の中では理解しているはずなのに、の肩を揺さぶる手の動作も、起こすために呼びかける声も、次第に弱まっていく。

 肩から手を離し、の顔に掛かる髪をそっとかき上げれば、ほんのり赤く染まった頬と、陰りを落とす長い睫毛と、薄く開いた艶かしい口唇が露わになった。視界に入るそれらの所為で、静止を求める思考とは真逆に、下半身は熱くなり、腹の底が疼くのを感じた。そのまま手のひらを彼女の頬に添えて、親指で口唇をなぞり、柔らかな感触を味わえば、下半身の熱は瞬時に固く形を持った。

 頭の片隅で「止めろ」と誰かが叫んでいる。警告音が頭の中にリフレインしている。心臓ははちきれそうなほどばくばくと高鳴り、部屋中に響き渡るほど早いビートを刻んでいる。いけない事をしようとしている自分がいる。の身体を仰向きにさせて、制服を引きちぎるように脱がして、全てを曝け出させ、その全てを堪能したい。強引に口唇を奪って、口内をぐちゃぐちゃにかき乱してやりたい。悲鳴をあげるほどきつく強くその身体を抱きしめてやりたい。


「なあ、起きてくれよ…」


 何事にも順序は必要だ。秘めた欲望を爆発させるためには、こなさなきゃならない三つの壁がある。今の俺はその三つの壁をスルーして、最終段階に踏み込もうとしている。この欲望をいつまで我慢すればいい?そろそろ我慢も限界だ。もう自分を制御できそうにないんだ。今にも溢れそうなこの欲望を、誰か止めてくれ。