Will you marry me?
3度目の正直





 3ヶ月前、ジュエリーブランドの店員に勧められるがまま購入したのは、中くらいのダイヤが輝くエンゲージリングだった。の喜ぶかんばせが見られたらそれだけで十分だったし、値段は高すぎず安すぎず、デザインは飽きのこないものを見繕ってもらったのだが…はて、どうしたものか。スターダストロードを一望できる広場で、思わず深いため息が零れた。

 結婚しよう。そのたった一言で済む言葉を、私は未だに言い出せずに居る。

 ブランド店特有の、上質な質感の小箱を上着のポケットから取り出し、蓋を開ければ、ダイヤは購入時と変わらぬ姿でまばゆい光を放っていた。指輪をそっと手に取り、沈む夕陽にかざすと、ダイヤはより一層美しい光を放った。私は眉間に皺を寄せて、その輝きを恨めしそうに薄目で睨む。

 もし世間が、時代を騒がせたあのリボルバーが今となっては色恋沙汰で頭を悩ませているなど知ったらとんだ笑い物だな。自嘲気味に笑う他ない。

 プロポーズの言葉、そのタイミングとシチュエーション。全てが一つとなって意味を成す。例え、ごく普通に自然の成り行きに身を任せ、この指輪を渡し、プロポーズをしたとしてもはいつもと変わらずいたく喜んでくれることだろう。目をらんらんと輝かせ、溢れんばかりの笑みを湛えて「ありがとう」と言うだろう。
 だが私にとって、これはいつものようなただの贈り物とは違う、深い意味を持つプレゼントなのだ。軽い気持ちで渡せるような代物ではない。何か、彼女を一生の伴侶とするための絶対的な決め手が欲しい。一生忘れることのできない、最高の思い出を彼女に与えてやりたい。


「私と一生を共に……いや、変に捻らずストレートに伝えるべきか…?」


 最高の言葉、最高のタイミング、最高のシチュエーション。瞼を閉じ、それらを頭の中でシミュレーションする。考えれば考えるほどもっといい案があるのではないかと思い、あろうことか3ヶ月の月日が経ってしまったが、だからと言って妥協はしたくない。私はそういう人間なのだ。

 指輪を箱に仕舞い、ポケットに忍ばせる。腕時計を見やれば、時刻は夕方5時57分を指していた。とのデートの待ち合わせ時刻まであと3分。今日も夜景の見える一流レストランを予約した。訪れるのはこれでもう3度目。プロポーズに挑むのも3度目。3度目の正直だ。最高のプロポーズのイメージは固まらないままだが、今日こそは何としてでも、の華奢な左手の薬指に指輪を通してみせよう。