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海馬瀬人と言う男



 あまり言及はしたくないが、海馬の着ているあの白いコートは良い意味でも悪い意味でも目立っているわけで、ネットや雑誌なんかでは彼の格好についての話題は定番になっていたりもする。とはいえデュエルディスクやソリッドビジョンシステムを作り出したカードゲーム界の革命家とも呼べる海馬の格好を貶したり嘲笑するものはごく少数であり、かえって彼をまるごと賞賛する声の方が多いのが実態である。も彼ら同様海馬の好きでやってる格好にケチをつけるつもりもピ●コのようにぐちぐちと主観を押しつけるファッションチェックをするつもりも無いのだが、ただ、場所を考えたらどうだと、さすがに今回は思わずにはいられなかった。



 学校。昼休み真っ直中。は購買で購入した焼きそばパンとパックジュースを手に教室へと足を運んでいたわけだが、教室のドアを開けたところでそれらを床に落としてしまいそうになった。まず視界に入ったのは細身の引き締まった上半身、そして首からぶら下がるカードの模様のペンダントトップ。おそるおそる顔を上げてみれば冷徹な眼差しがを真っ直ぐに見据えている。眉間の皺は普段より一層増していた。

「貴様……なぜ電話に出ない!」

「でっ、でんわ……?」

 何の事やらとは混乱の最中制服のポケットに突っ込んであった携帯を取り出し、電源を入れた。ディスプレイが明るくなったところで、ぎょっと目を見開き言葉を失う。
 着信履歴、54件。

「ごじゅうよん?!」

 一体何事かとは履歴を眺める。下へ下へといくらスクロールしても現れる名前は全て海馬瀬人。どれもこれも一時間内の着信で、履歴はほぼ海馬で埋まっていた。背筋が凍り付いた。

「ちょ、なにこれ、どういうこと?」

「どういうこともこういうこともあるか。貴様が一向に電話に出ないからこのオレがわざわざ出向いてやったんだ。感謝しろ」

 突拍子も無いことを言い出されて尚かつ感謝を強要されたのは生まれて初めてだった。海馬の殺気に近い怒りが肌を突き刺すように向けられており、どうにかしてこの場を和ませなければとは混乱したままの思考回路をフルに回転させ機転をきかせようとした。

「電話にでんわー……なんちゃって……」

「殺すぞ」

 思考回路をフルに回転させた結果がこれである。海馬の殺気が強まっただけで緩和も問題解決にも至らないくだらない洒落をかましてしまったことには酷く後悔する。きっと今の海馬と目を合わせたら石化してしまうだろう。あはは……と渇いた笑声を零してどうにか受け流すのがやっとだった。
 ぱしゃ、と携帯独特のシャッター音が聞こえた所ではようやく周りの注目を集めていたことに気が付く。「すっげえ、生海馬だ!」「戦闘服着てるぜ!」「痴話喧嘩?」「あの二人付き合ってたんだー」「あ、俺も記念に撮っておこう」などと生徒各々が好き勝手に言動をしているが海馬は勝手な撮影や噂に気を止める様子もない。ただを見下し睨み付けているだけである。おそらく海馬がこの格好で来なければここまで注目を浴びることもなかったのかもしれない。というかただ学校に来るだけなら別に制服やスーツでいいはずだ。

「学校に来るときくらいもうちょっとまともな格好した方が……」

「なんだと?」

「なんでもないですすみません」

 誰かが海馬の格好を戦闘服と表現した通り腕にはデュエルディスクを装着していて、今すぐに誰かとデュエルをしに来たような風貌である。なぜに。

「いいか、貴様のそのちんけな脳味噌に刻み込んでおけ。オレからの電話は五秒以内に出ろ。オレを待たせるな。分かったか」

「んな無茶な!」

「再び手間を取らせたりでもしてみろ。二度と朝日を拝めないようにしてやる!」

 海馬の怒号が発せられると、周りの野次馬が「おおー!」と歓声を上げた。はこれ以上彼を煽らないでと顔を真っ青にさせて心の中で必至に願うのだが、それも叶わず周りの生徒は海馬すげえなどとほざいている。

「なんだよこの人だかり……って、おい、なにしてんだ」

「城之内! 良いところに!」

 にゅっと野次馬をかき分けて現れたのは城之内だった。この時、には城之内が光り輝く救世主に見えたのである。助けてくれと言わんばかりの眼差しを彼に向けたがその視線は交わることはなく、城之内の意識はの前に立ちはだかる男に全て向けられてしまった。

「うあ゙っ! 海馬ぁあ!? てめっ、なんで学校に!」

 仰け反り指を指し、威圧的な視線を送る城之内を海馬は相手にすることもなく、ふんと鼻であしらい視界から外す。全く相手にされていない事に気が付いたのか城之内は中指を立てこのヤロー! と怒りの炎をめらめらと燃やしガンを飛ばすがそれでも海馬は興味を持とうとも挑発に乗ろうともしなかった。

「行くぞ」

 降りかかってきた言葉に、はどこに、と問いかけようとしたが、海馬の行動の方が素早く言葉はいとも簡単に遮られてしまった。その瞬間、の身体が宙に浮く。視界がぐらりと揺れたかと思えば海馬の背中と床が目に入る。お腹の辺りが圧迫されて少々苦しい。海馬の腕がの脇腹辺りを抱えている。状況を飲み込んだ頃には海馬はすでに歩き出していた。
 担がれている。引っ越しのあんちゃんが荷物を運ぶかのように。
 が咄嗟に顔を上げると顔を引きつらせた城之内と目があったが、助けを求めるには遅く、海馬の肩の上に担がれただ大人しく運ばれていった。



「ああもう、離して海馬! パンツ見えちゃう!」

「安心しろ。貴様の下着を見て喜ぶ奇人などこの世にはおらん」

「それはそれで複雑だけどおーろーしーてー」

 がばたばたと足をばたつかせるが海馬の担ぎ方は拘束に等しくびくともせず、階段を颯爽と駆け下りる。海馬の歩く速度が速いので風が内股に入ってくる。その所為でスカートが少々めくり上がっているのだが海馬はそれを気にもとめようともしない。その際も生徒や教師の注目を浴び(誰も止めようとしないのがすごい)は羞恥に晒された訳である。
 外に出て、ようやく地上に降ろされるかと思えば海馬はを乱暴に車の後部座席へ投げ入れた。そして自分は運転席に乗る。キーを回して一息も吐かずに車を急発進させた。
 乱暴な運転には座席から転落しそうになるがどうにか腕を踏ん張らせて態勢を立て直し、起きあがると前部座席の間の隙間から顔を出して海馬を覗き込み力一杯に声を出す。

「ちょっ、どこ行く気? まだ学校あるんだけど」

「ぎゃあぎゃあ騒ぐな鬱陶しい。少しは黙れんのか」

「いやいやいやこの状況で大人しくしろって言う方が無理だから!」

「本当にうるさい奴だな。これ以上騒げば前歯を全部へし折るぞ」

 海馬はそう言うと運転をしつつの頭を掴み片手で下へと押さえつけるように力を込めた。はそれに対抗して手と頭に有りっ丈の力を集めて抗戦するが、男の、それも海馬のどこから湧き出ているのか不可解なおぞましい力には敵わず。

「いだだだだだ! ギブ、ギブギブ! 死ぬ! 死んじゃう! わかったわかりました大人しくする静かにするからお願い手を離してええええ」

 このままでは前歯を折られるどころか頸骨を折られてあの世の住人になってしまう。の悲痛な叫びを聞いた海馬は満足げに手を離し、非道な行為から逃れたは勢いよく顔を上げうなじを大げさにさすりだした。

「っ~~~~~、お花畑見えた……」

「ふん……あと少しだったか」

「え、なに、本気で殺す気だったわけ」

「どうだろうな」

「(こいつならやりかねない……)で、どこ行くの?」
 は革張りの背もたれに背を預ける。「ていうか私上履きのままなんだけど。鞄も学校に置いて来ちゃったし。パンとジュースは持って来ちゃったけどさ……。あ、そういえば私まだお昼食べてないんだよね。今食べていい? ダメって言われても食べるけど」

「黙ってろと言ったはずだ。そんなに舌を切り取られたいか」

「すいませんでした大人しくします」

「ふん」
 赤信号に捕まる。平日だというのに童実野町の道路には沢山の自動車が列を成していた。は袋から焼きそばパンを取り出し、もそもそと食し始める。海馬はその様子をバックミラーを通して見つめていた。「汚したらただじゃ済まさんぞ」
 海馬は冗談のつもりで言っているのだが、なにせ顔が笑っていないので、は今まで生きてきた中で一番気の使う食事をしたわけである。



 海馬の運転が乱暴な事に変わりはなく、体験したくもないカーチェイスを体験させられ後部座席で右へ左へと身体を揺さ振られながら着いた場所は、建設中の海馬ランドだった。
 胃の中の焼きそばパンが激しく揺さ振られたせいか猛威を振るっている。は覚束ない足取りで車から降りると、海馬が嘲笑を含んだ笑みと視線を送っていた。

「全く情けない奴だ。あれしきの運転で弱るとはな」

「……私はあんたみたいなスーパーマンじゃないの」

 は口元を押さえつつ反論するが、そんなのお構いなしに海馬はずんずんと前方へ足を進める。置いて行かれぬようにもそれに続くが歩幅の差は大きいようで、海馬は歩いているというのに対照的には小走りである。待ってよとは言うが、海馬はのろまめと口にするだけで対して気にも止めず自分のペースで歩いていく。

「ここだ」

 海馬が足を止めたのはブルーアイズ・ホワイトドラゴンの頭部を象った大きなドームの前だった。辺りに鉄骨や機材が残ってはいるがほぼ出来上がった形のそのドームの入り口にはKC社員と思われるスーツを着た人が幾人かおり、その中にはモクバや礒野の姿も見える。海馬の姿に気が付いたのか、社員らは「おはようございます社長」と挨拶をし深々と頭を下げた。モクバはダッシュで海馬の元へ駆け寄り、礒野はやや早足で二人の元へ歩み寄る。

「兄サマ! もう準備は整ってるぜぃ」

「そうか。ならば今すぐ始めるぞ」

「瀬人様、対戦相手は誰になさるおつもりですか?」

「こいつだ」

 海馬は後ろできょろきょろとして落ち着きのないを親指を立てて指す。その場にいた全員の視線がに集中した。「こいつとデュエルする」

「へっ、な、なに、何事?」

 唐突に社員一同の視線が集められたことからはきょろきょろと忙しく動かしていた視線を落ち着かせた。

が? まー兄サマには絶対勝てないだろーけど、精々頑張るんだな!」

「いやだから何の話?」

 頭上にクエスチョンマークを浮かべ頬に人差し指を当て小首を傾げると海馬が鼻を鳴らしての方へ振り向き「貴様はこれから海馬ランドの歴史の一ページに名を残すことになるわけだ」と言い放った。

「我が海馬コーポレーションの技術を余すことなく集約させたこのデュエルスタジアムで……試験運転を兼ねたデュエルが今から行われる。その対戦相手として貴様が選ばれたのだ! デュエリストとして誇りに思うが良い! ワハハハハ」

「え、ええええええええええ」

 高笑いをする海馬とは正反対には大口をあけてありえんと言わんばかりの声を上げた。社員らはおめでとうなどとぬかして賞賛の拍手を送っている。

「なにそれ、私と海馬がデュエルって……」

「ずべこべ言うな。オレが相手と知って怖じ気付いたか」

「んなわけないでしょ」
 は顔をむっとさせ反論をする。「ていうか私今デッキ持ってないんだけど」

「案ずるな。貴様のデッキならここにある」

 海馬は懐から40枚のカードを取り出しに手渡した。はまさか、と零しながらデッキのカードを一枚一枚捲って確認していく。ミラフォ、リボルバードラゴン、タイムイーター、追い剥ぎゴブリン……お馴染みの顔ぶれが揃っている。紛れもなくのデッキだった。カードを十数枚ほど捲ったところでピンと来た。

「だからあんた教室の中に……」

 学校で、教室のドアを開けて鉢合わせたのはこういうわけだったのだ。が電話に出ない。痺れを切らした海馬が学校へ赴く。が購買でパン争奪戦争に参加している間に海馬が教室に現れ、彼女の鞄からデッキだけを取り出す(ちなみに制止する者は一人もいない)。海馬が教室を後にしようとすると、ドアが勢いよく開く。そして二人は出くわしたのだ。
 は思わず肩を落とした。これまでの意味不明な海馬の行動はデュエルをするがためのもの、あの不気味な着信件数も白いコートを着ているのもデュエルディスクを装着しているのも拉致したのもカーチェイスも全て、デュエルという一点に繋がっていたのだ。つくづく海馬という男は説明が足りてないとは思う。今に始まったことではないが、事前に少しでもいいから説明があってもいいものではないのだろうか。

「どうした、何をぼんやりしている。さっさと行くぞ」

 脱力気味ののに海馬はぶっきらぼうに声を掛け、返事も待たずに社員らと共にドームの中に消えていった。

「おい
 後へついて行くべきか躊躇しているにモクバが声を掛ける。「デュエルディスク持ってないだろ? オレの貸してやるよ」

「あ、モクバくん……ありがと」

 どうやらデュエルは既に決定事項らしい。今踵を返して学校へ掛け戻ってもいいのかもしれないが、そんなことをしてしまえば前歯をへし折られたり舌を切り取られるだけではおそらく済まないだろう。大人しくデュエルを受けるしかの明日は繋がれないのだ。モクバからデュエルディスクを受け取り腕に装着すると、モクバはちょっと屈んでくれと頼んできた。は言われたとおり膝を折り曲げモクバの目線と同じくらい屈む。耳元に口唇を寄せ囁くようにモクバは言う。

「兄サマはあんな風に言ってるけど……実はな、今日のデュエル結構楽しみにしてたみたいなんだ」

「そうなの?」

「兄サマはちょっと素直じゃないところあるからなあ」

「あれは素直かどうかっていう次元じゃない気がする……」

「まっ、兄サマのためだと思ってデュエルしてくれよ。ああでもお遊び気分でやっちゃダメだぜぃ、兄サマは本気なんだからな!」

 へへっと人差し指で鼻の下を擦りモクバは笑う。

「でもさー、デュエルの相手なら別に私じゃなくてもいいんじゃないの? 遊戯とか城之内とか」

 当然の疑問だった。趣味と好みで組んだデッキを扱うよりも上のデュエリストなど星の数ほど居るし何よりキングオブデュエリスト武藤遊戯を対戦相手に選ばないのは不可思議であった。何を思ってを選んだのか、全く持って見当つかないのである。

「デュエルを申し込んだのは貴様だろうが」

「そうだっけ……って うわぁああ!」

「に、兄サマ!」

 音も気配もなく海馬はの真後ろに、威圧的な鋭い眼光を備えて立っていた。海馬はドームに入っていったのではないのか。二人が察知できないほどの静寂なる移動術に、は口を金魚のようにぱくぱくと開閉させた。

「さっさとしろこの愚鈍め。オレを待たせるなと何度言えば分かる」

 海馬はそう言うとの首根っこを掴んでずりずりと引きずるように引っ張っていく。痛い痛いとは抵抗するが、やはり海馬、そんな言葉には耳も傾けようとはしない。ドームの内部に入るとようやく手を離すがその手はの手首を掴みまたも強引に引っ張っり階段を下りていく。

「ね、ねえ、私、いつデュエルしてって言ったっけ」

 引きずられながらは質問する。海馬は振り向きも立ち止まりもせず答えた。

「忘れたとは言わせんぞ」

「そう言われてましても……」

「ふん」
 腕を掴む手を少し緩め、呟く。「……バトルシティ」

「あ……」

 海馬の声に促されるようにはゆるゆると記憶の糸を辿っていく。うっすらと蘇っていく記憶。薄れることのない鮮明な。まだもう一人の遊戯がいた頃一年以上も前に開催された大がかりな大会、バトルシティ。街で偶然海馬のデュエルを見ていたはその際冗談めかして「私ともいつかデュエルしてね」と言ってみたのである。海馬の冷徹な視線が痛かったが、帰ってきたのは思いもよらぬ一言だった。「いいだろう」。

「覚えてたんだ……」

 罵倒され相手にされないと思っていた。どうせあしらわれて紙のようにぐしゃぐしゃに丸められ投げ捨てられる投げかけだと自身自覚していたし、今となってこの言葉が彼の記憶の片隅に存在しているなど考えもしなかった。

「忘れられたかと思ってた」

「貴様と一緒にするな」

「でも、なんで今……」

「人の話を聞いていなかったのか。言っただろう、これは試験運転だ。他意はない」

 階段を過ぎ一本道を歩けば、大きなライトが幾つも光り輝くドームの内部にたどり着いた。広大な面積のそこには大きなデュエルスペースが設けられている。初めて見る形のスペースだった。大きな管が辺りから伸び、スペースにいくつも直結している。

「海馬……」

「さっさと始めるぞ。早く向こうに行け」

「う、うん」

 海馬は腕を掴んでいた手を離すと冷たく言い放った。多少よろめきながらは海馬とは反対方向へ移動する。デッキをシャッフルし、先攻後攻を決めると、客席から発せられたモクバの声が辺りに響いた。

「兄サマー! がんばれー!」

 その声援に海馬は満足げな怪しい笑みを浮かべる。

「手は抜かんぞ。本気でかかってこい!」

 やるしかないとは腹をくくる。モクバが言っていた「楽しみにしていた」が本当だとするなら、海馬の奇行さえ許せそうに思えたのだ。デュエル、と二人の声が重なる。



 結果は言うまでもないが海馬の全戦全勝に終わった。初めて経験した緊張感、1ターンごとに張り巡らされる知略と精神の勝負の駆け引きはが思ってた以上に身体に疲労をもたらした。8戦目に突入すると日は陰りを見せて来ていたが、それでも海馬はデュエルを続行する、と言って聞かなかった。最終的にデュエルが終了したのは12戦目の途中。日は完全に落ち、もう無理とが倒れ込んでサレンダーしたことにより、海馬ももういいだろうと見切りをつけたからである。

「無理、もー無理、動けない、おなかすいた」

 はだらんと身体をスペースの上に預け仰向けに倒れている。海馬はそんな彼女へ歩み寄り、腕を組みつつ相手を愚弄するかのように言った。

「だらしのない奴だ」

 海馬はとは対照的に活き活きとしており、疲れなど全く見せていない。デュエルをして逆に元気になったとも言える。彼にとってデュエルとは興奮剤を注入するような効力があるようだ。

「海馬は強いなあ」

「貴様が弱すぎるだけだ」

「うへぇ……」

 は思わず苦笑いを零すが海馬はそれを怪訝そうに睨んだ。

「立て。帰るぞ」

「えー負ぶってよ」

「喉を潰されたいか」

 またも笑えない冗談である。海馬が片足を上げたところで、は上半身を勢いよく起こした。よろよろと立ち上がると、海馬が唐突な言葉を投げ掛けてきた。

「帰る前に一つ訂正しておく」

「なに?」

「電話は五秒以内に出ろと言ったが……やはり三秒以内に出ろ。分かったな」

「ねえ海馬、無謀って言葉知ってる?」

 ファッション以前に常識が無いのである。